この度、名誉ある賞を受賞する機会をいただき、湖医会幹事の皆様、そして推薦してくださった松本哲也先生に深く感謝申し上げます。今回の受賞対象である腹膜播種疾患に対する外科的切除(腹膜切除)の治療に2007年より携わり、これまでに全国から約2000人以上の患者様が淡海医療センターを受診し、約3000件の手術を行ってまいりました。その道のりにおいて、3人の先生に特にお世話になりました。
滋賀医大第二外科に入局し、カリスマ的な存在である藤村昌樹先生に出会い、大学院生としての群馬大学への国内留学、研究から外科臨床への復帰など、結果として様々なタイミングで人生の転機を与えていただきました。
群馬大学では、消化管運動の分野で国際的に著名な伊藤漸先生の下、研究に取り組みました。伊藤先生からは、学問への探究心に加え、生き方や考え方について多くを学びました。藤村先生から「2,3年くらい行ってこい」と言われていましたが、アメリカ留学も含め最終的に10年間も研究を続けることになりました。
外科医に戻れるのかとも不安に思いましたが、5年間ほど外科臨床のリハビリを経て、2007年に草津総合病院(現:淡海医療センター)に赴任しました。そこで腹膜播種治療の第一人者である米村豊先生と仕事をする機会を得て、治療が困難とされる腹膜播種症例でも完治や長期生存が得られることを目のあたりにし、大きな驚きを覚えました。
腹膜播種は、化学療法の進歩にもかかわらず予後が不良であり、進行例では外科的切除が選択されることはほとんどありません。しかし、壁側腹膜切除と臓器切除を組み合わせた腹膜切除術により、播種病変の切除が可能となり、この治療法は海外で広く実施されています。本邦では対応可能な施設が限られ、当院を含む一部の施設に症例が集中してきましたが、近年では、主要ながん治療施設でも採用されるようになっています。
振り返ると、3人の先生との出会いが、自身の外科医としての人生を形作ってくれました。外科医としての時間は残り少なくなりましたが、この治療に適応する患者様に対して、引き続き尽力してまいります。この治療法は、手術だけでなく術後管理においても多くの先生方やコメディカルの皆様に支えられてきたものです。改めて心より感謝申し上げます。