4期生、1984年卒の金谷と申します。この度の「湖医会賞」の授与、身に余る光栄に存じます。卒後、外科医になって以来の目標が「同僚に評価/信頼される外科医になる」ことでした。そういった意味では、外科医である後輩(5期生、福井赤十字病院 藤井秀則先生)に推薦され、また、OBの先生方によって決定された今回の受賞は、本当にうれしく感激しています。
今回の受賞のきっかけともなった腹腔鏡下胃切除は、良性疾患に対するものが1992年、胃癌に対するものが1994年に報告された新しい治療法です。昨年、慶応大学病院で王貞治監督に施行され一躍有名になりました。傷が小さく美容面での優位性ばかりがクローズアップされていますが、他の利点も多く、腹腔鏡を用いた治療法の開発は、100年を超える外科の歴史の中でも革命的な出来事です。
私は、大学を卒業後、滋賀医科大学第2外科・京都桂病院で初期研修を行い、1990年からは京都大学第2外科に所属し、1995年より姫路医療センターに勤務しています。1993年頃から摘出術を手始めに腹腔鏡手術を行っていましたが、姫路では積極的にその分野を 行う外科医がいなかったこともあって、本当にコツコツと症例を重ねながら守備範囲を広げてきました。
腹腔鏡下での胃切除の場合、標本の摘出と再建に4~5cmの小切開が必要とされる術式が一般的ですが、私はこれを、当初から小切開を置かない完全鏡視下での手術にこだわって行ってきました。当然、安全性が第一であることはもちろんですが、胃癌に対して腹腔鏡手術を行う場合は、その根治度も方針も従来行ってきた開腹術と同等以上であることが保証されなければなりません。症例ごとに改良を加え、時にそれを発表し、批判/意見を頂戴しながら、また改良を加える、と言った具合で術式が完成していきました。今では、創は1cm程度のものが5カ所のみ、内1カ所、臍部の創を拡大して標本を摘出する術式で、いわゆる定型手術とされる2群リンパ節郭清までの手術、つまり、進行癌に対する通常の手術までが可能となりました。術野を拡大視しての作業のため、リンパ節郭清の精度も上がり、また、合併症も開腹術に比べて著しく減少しています。なによりも患者さんが術後に楽で回復も早い、患者フレンドリーな術式で、近い将来必ず標準術式になるものと確信しています。
「四十にして惑わず」「五十にして天命を知る」と言います。確かにそうかも知れません。ただ私の場合、これまで無心に取り組んだ腹腔鏡手術によって、学閥を超えた仲間も増え、気が付いたらその道のパイオニアの一人になっていたと言うのが現状です。胃癌に対する腹腔鏡手術による治療の波はまだ出現したばかりです。全国で志を同じくする仲間が力を合わせ頑張る必要があります。今回の「湖医会賞」の受賞を励みに、さらなる飛躍を目指したいと思います。
最後になりましたが、今回の受賞に際して力添えいただいた関係各位に深く御礼申し上げます。ありがとうございました。