小山 『診療・福祉領域』

  湖医会賞を受賞して

    小山 恒男

    (医5期生、佐久総合病院胃腸科部長)



 この度は第3回湖医会賞を賜りありがとうございました。同窓会とはありがたいもので、在学中には全く面識のなかった2期生の阿部先生にご推薦頂き、諸兄のおかげで受賞することができました。この場をお借りし感謝致します。

 私は卒業と同時に滋賀を飛び出し佐久総合病院で卒後研修を受けました。1日も早く臨床医になりたかったからです。以後20年間、目の前の患者様を治したいと地道な努力を積み重ね、消化器癌の新たな治療法である「切開・剥離法」を開発することができました。昨年執筆した拙書「Endoscopic surgery 切開・剥離EMR」の序文を引用し、受賞の言葉とさせて頂きます。写真は本年の米国内視鏡学会(ASGE)にてBest cases 2004 に採択されNew Orleansにて講演中の筆者です。

▼序文

 一日も早く一人前の臨床医になりたい。1985年に滋賀医大を卒業すると同時に佐久総合病院の臨床研修医になった。先輩方から多くの知識、技術を学んだ。本も読んだ。論文も読んだ。学会にも行った。だが、私の消化器診断能は伸びなかった。このままではだめだと思った。第一人者から直接指導を得たい。院長に1年間の留学を申し出た。

▼全ては新潟から始まった

「先生の診断学を教えて下さい」初対面の渡辺英伸教授にお願いした。「よかよか」2つ返事で弟子にしてくれた。そして1991年の春、新潟大学第一病理学教室の研究生となった。
1年しか時間がなかった。受験勉強より、国試勉強より真剣に学んだ。新潟での1年間で100例の食道癌、1000例の胃癌そして600例の大腸癌の診断を経験した。毎日11時から切除標本の肉眼検討会がある。切除標本を肉眼で見ただけで組織型、深達度、進展範囲、浸潤様式まで推定する。驚いた。肉眼検討会の後、切り出しを行うと2日後には標本になって戻ってくる。鏡検してみるとたしかに肉眼診断通りだ。すごい。佐久に戻ったら内視鏡診断学に応用しようと思った。

▼佐久に戻って

内視鏡で見える粘膜と切除標本は全然違った。内視鏡では粘液まみれで良く見えない。前処置を変えてみた。全例にプロナーゼ、重曹を使った。よく見えるようになった。その年から食道表在癌の発見率が5倍に増えた。

▼EMR

分割切除では詳細な肉眼診断ができない。何とか綺麗な一括切除標本を得たかった。粘膜下層を剥離できれば大きく正確な一括切除ができるはずだ。針状ナイフで剥離してみた。残念ながら、だめだった。

▼Hookナイフ

Hook型ナイフがあれば、剥離できるはずだ。試作し、使ってみた。面白いように剥離できた。7cmの食道表在癌に挑戦した。2時間かかったが一括切除できた。感動的に綺麗な標本だった。涙が出る程うれしかった。

 学会での反響は極めて大きかった。2000年の春、内視鏡学会総会のVTRシンポジウムで7cmの食道表在癌の一括切除を3例呈示した。会場がどよめき、そして静まりかえった。

▼EMRの心得

 EMRに最も大切なことは正確な術前診断である。いくら切開剥離法で一括切除しても伸展範囲診断を間違っていれば局所再発を来す。切開剥離屋になってはいけない。医者には診断と治療の両輪が必要である。

「局所再発しても粘膜内癌だから生命予後に影響はない」と偉い先生が講演されていた。たしかにその通りである。でも再EMRには再入院が必要になる。何より患者様が不安な日々を送らねばならない。多少時間がかかろうとも、一回の治療で完全切除を目指すべきである。

▼おわりに

 常に助手を務めてくれた内視鏡技師、学会・研究会等で留守の多い私と長年共に働いてくれている胃腸科スタッフのみなさん。そして毎週末に学会・研究会があり、平日の帰宅も遅い私を支えてくれている裕子、由人、由志に感謝の意を表しこの序説を終える。本書が安全な「切開・剥離法」普及の一助になれば幸いである。

  ~2003年春、佐久にて~

    【プロフィール】
1985年
滋賀医大卒業、佐久総合病院研修医
1989年
国保浅科村診療所所長
1992年
佐久総合病院内科医、学位取得(新潟大学)
1993年
佐久総合病院内科医長
2002年
佐久総合病院胃腸科部長