井上

湖医会賞を受賞して

  井上慶郎

  (医8期生、岡山 林道倫精神科神経科病院 副院長)

 このたびは、第一回湖医会賞を授与いただき、身に余る光栄と、心よりお礼申し上げます。今はまだ驚きばかりで、心も定まらぬばかりです。

 このたびの受賞を思うたび、先輩はじめ諸先生方が日々積み重ねられてきた医療活動を代表して、いただくものと、心を新たにいたしております。

 思いおこせば、入学と同時に医療問題研究会に入部し、渡部眞也教授の御指導のもと、様々なフィールドワークを経験し、「地域医療と精神医療を一つとした、より在宅の、患者様の為の医療ができるようになるのではないか」という構想を持つに至りました。

 地域医療をいう領域では、すでに、群馬大学医学部のフィールドワークの成果が示されておりました。地域に退院し生活する精神障害者を、大学の医局の総力をあげてフォローするという試みでしたが、奮闘なされたにもかかわらず、「退院年月の有為差は無かった」という結論でした。これをみて私が感じましたのは、ことさらに在宅期間を競うことよりも、入退院を繰り返しながらも、何度目かの退院で最終的に末長く在宅で生活することを目指した方が有効であると、実践を通して確信いたしたところです。そこでチーム医療を手段として用い、患者様を病院の近くのアパートに退院していただき、不安になったり調子が悪くなったらいつでも入院してよいのだと説明し、二~三回の休養入院はあったものの、現在は長期間の在宅生活を送っていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。むろん、このプロジェクトでは、外来看護婦・精神科ソーシャルワーカー等、コメディカルの協力が不可欠です。が、林病院も加盟している民主医療機関連合会(民医連)の院所においては、このようなチーム医療を行なう風土が培かわれていたということが重要なポイントでした。

 その後も地域精神医療の観点から、痴呆老人の医療のための『重度痴呆患者デイケア』の創立に関与し、また、痴呆専門病院(三病棟百八十床)の開設の統括責任者となり、九十九年十月に『岡山ひだまりの里病院』をオープンいたしました。現在は介護保険認定審査員として活動しております。

 労働者のメンタルヘルスが社会問題となっておりますが、精神科の産業医として特に教職員対象の活動をしております。また、思春期メンタルヘルスもまた社会問題となっておりますが、現在、県立高校の学校医として、この問題に取り組んでおります。

 最後に付け加えておきたいことは、岡山には、森永ヒ素ミルクの被災者が多くいらっしゃいます。この方々の救済対策委員としても十年来携わっております。

 なお、当院は厚生労働省指定の臨床研修指定病院となっておりますので、精神保険指定医を目指す研修医の指導にも力を注いでまいりたいと存じます。今後の構想としては、精神科救急病棟の開設・安全管理委員会及び褥瘡対策チームの設置の後、病院機能評価機構の認定を仰ぐ所存であります。

 このような、一臨床医としての、一つ一つの小さな仕事を精進してまいりました結果の受賞なのかと思う次第です。  今後とも、今回の受賞を励みとして、諸先生方、多くの皆様のご指導ご鞭撻をさらにいただきながら、毎日の医療に従事させていただきたいと存じます。

 このたびは、まことにありがとうございました。