【プロフィール】
1988年3月   滋賀医科大学医学部医学科卒業
1988年6月   滋賀医科大学附属病院第三内科 医員
1989年3月   同退職
1989年4月   第二岡本総合病院医師
1991年4月   同退職員
1991年5月   国立循環器病センター内科動脈硬化代謝部門レジデント
1994年4月   同修了
1994年5月   同内科脳血管部門専門修練医
1996年7月   同修了
1996年7月   同内科脳血管部門
1997年5月   同研究所病因部脳血管障害研究室室員、内科脳血管部門
2005年11月  医師併任
       国立循環器病センター 内科脳血管部門医長        現在に至る

横田



『臨床・福祉領域』
横田 千晶
(医8期生、国立循環器病研究センター 脳血管内科 医長)

小中学生への脳卒中啓発の試み ACT FAST!


     
  脳卒中は、わが国における要介護の原因疾患の第一位である。超高齢社会を迎えたわが国において、脳卒中発症予防と後遺症軽減は大きな社会的課題である。脳卒中発症予防には、若年からの適正な生活習慣を危険因子コントロールが、脳卒中後遺症の軽減には、脳卒中発症後早期から治療介入が不可欠である。2005年10月より、わが国においても脳梗塞超急性期患者に対する遺伝子組み換え組織プラスミノゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator; rt-PA)静注療法の国内承認がなされた。わが国でのrt-PA静注療法開始は3.0時間から4.5時間以内と延長されたが、発症後の血行再開療法は“much sooner is much better”と言われ、可能な限り発症早期の病院到着が望まれる。発症後の病院受診までの遅れを最小限にするには「脳卒中発症に気づくこと」、「脳卒中発症後の対処」が極めて重要なポイントである。
 我々は平成22年度より、国立循環器病研究センター内の研究費(循環器病研究開発費、主任研究者 峰松一夫)により、中学生を対象にした脳卒中啓発活動を開始した。中学生を対象にする目的は、若年からの生活習慣を是正することによって、脳卒中の発症予防が図れること、さらには、両親や祖父母が脳卒中になった際、bystanderとして適切な対処を可能とさせ、家族に対する脳卒中知識の間接的な啓発も期待されるからである。
 脳卒中啓発活動の実際は、医師による脳卒中危険因子およびFASTメッセージを伝える「脳卒中教室」(45分間授業)と脳卒中啓発教材の配布を行った。FASTメッセージとは、F=face(顔)、A=arm(腕)、S=speech(言葉)、T=time(時間)の「F」「A」「S]で表される3つの徴候のうち1つでもあれば脳卒中の可能性は72%であり、こうした症候が出現したらすぐに時間「T」を確認して救急要請を行わねばならないというものである。(Kothari RU,et al Ann Emerg Med 1999;373-378)。脳卒中啓発教材としては、京都精華大学マンガ学科との共同開発によりFASTメッセージが示されたマンガ小冊子、DVD、ポスター、メモ帳、ボールペン、クリアファイル、マグネットなどを作成した。中学生に対するこうした脳卒中啓発活動により、介入直後、介入3ヶ月後も、生徒のみならずその保護者にFASTメッセージが保持されていた(天野達雄、横田千晶、他、脳卒中の外科39:204-210.2011)。しかしながら、医師による啓発活動のみでは全国に広めるには限界がある。そこで我々は、学校の先生に脳卒中啓発授業を行い、学校の先生から生徒に脳卒中啓発を拡げる試みを行った。その結果、学校の先生による脳卒中啓発授業は、医師が行ったのと同様に、生徒にFASTメッセージを伝えることが検証された。(Miyashita F, Yokoya C, et al International Stroke Conference 2012,New Orleans,USA,Feb1-3,2012)更に、公立中学校1 校を対象として、我々が作成した脳卒中啓発DVDやマンガを配布のみでも、FASTの啓発効果が得られることを確認した。これらの結果を受けて、本年9月〜脳卒中啓発マンガ冊子、DVDを吹田の全公立中学校に配布し、脳卒中啓発効果を検証することになった。また、厚生労働科学研究費「慢性期ハイリスク者・脳卒中および心疾患患者に適切な早期受診を促すための地域啓発研究」(主任研究者:宮本恵宏)、脳卒中協会との共同研究で、栃木県(脳卒中死亡全国1位)の特定の地域の全公立中学校にも同様に啓発教材を配布し、啓発効果を検証する予定である。
 現在、脳卒中啓発教材(DVD,マンガ)の小学校版の作成と小学校への啓発介入にも着手した。