【プロフィール】
1985年3月   滋賀医科大学医学部医学科卒業
1985年6月   滋賀医科大学附属病院第三内科 医員
1986年4月   滋賀医科大学大学院医学系研究科博士課程入学
1990年3月   滋賀医科大学大学院医学系研究科博士課程修了
1990年4月   公立甲賀病院内科 医員
1992年11月  滋賀医科大学附属病院 医員(救急部、第三内科
) 1993年10月  米国ミシガン大学医学部病理学講座 研究員
1996年4月   滋賀医科大学附属病院 医員(救急部、第三内科)
1999年1月   滋賀医科大学内科学第三講座文部教官助手
2000年11月  理化学研究所遺伝子多型研究センター 研究員
2001年9月   理化学研究所遺伝子多型研究センター チームリーダー(糖尿病性腎症関連遺伝子研究チーム)
2008年4月   理化学研究所ゲノム医科学研究センター チームリーダー(内分泌代謝疾患研究チーム)
2008年12月  順天堂大学医学部大学院スポートロジーセンター 客員教授兼任
       現在に至る

前田



『研究領域』
前田士郎
(医5期生、理化学研究所ゲノム医科学研究センター
                      内分泌代謝疾患研究チーム・チームリーダー)

「必ずできると」と信じて


     
 このたびは名誉ある『湖医会賞』に選出頂き、ありがとうございました。今回対象となりました私達の成果は自分の腕1本で築き上げてきたわけではなく、多くの患者様と滋賀医科大学をはじめ国内外の共同研究者、スタッフのご協力の上に成り立っております。本来であれば個人受賞にはふさわしくないとも思案いたしましたが、生まれて初めての受賞でもあり、感激のあまり、厚かましくも受賞させて頂く事といたしました。長年ご指導賜っている繁田先生(名誉教授)、吉川先生(前学長)、柏木先生、羽田先生(現旭川医科大学)、古家先生(現金沢医科大学)をはじめ先輩同期後輩の諸先生、ご推薦頂いた前川先生ならびに選考委員の諸先生には心より御礼申し上げます。受賞にあたり私が歩んできました道のりと対象となった研究についてご紹介させて頂きたいと思います。

〜学生時代から臨床医時代〜
 学生時代はラグビー部に所属しておりまして、この時代の事をほじくりかえされますと受賞が取り消されるかもしれないと不安になります。ご記憶の皆様には「あの士郎が」ということで暖かく見守って頂ければ幸いです。卒後は当時の第3内科に入局し、腎臓グループに配属となりました(この間にも多くの失態がありました。関係の諸先生本当に申し訳ありません)。1996年からは大学病院において優秀な部下に助けられ(当人達にとっては迷惑であったと思います。許して下さい。)主に腎疾患診療に従事しておりました。同時に糖尿病腎症の遺伝学的研究にも携わっていましたが、思うような成果は得られず、悶々とした日々を過ごしておりました。

〜運命が変わった1時間)
 2000年初頭、大学で日本のゲノム研究を牽引している中村祐輔先生の講演を聞く機会がありました。恥ずかしながら私は理研も中村先生の名前も全く知りませんでした。当時、中村先生は、ゲノム全域にわたり生活習慣病の関連遺伝子を探し出す研究(ゲノムワイド関連解析といいます)を世界に先駆けて実現するため、ゲノム医科学研究センターの設立準備を進めていました。中村先生の講演は1時間くらいだったと思います。1カ所を調べるのに1ヶ月もかかっていた時代に、30億塩基対に及ぶヒトゲノム全域を調べて関連遺伝子を探すという壮大な構想に、とにかく圧倒されました。私はこの講演を聞いて、吉川、羽田両先生のお勧めもあり、大学を辞めて理研のゲノム研究センター設立に参加することを決断しました。やっと日雇いからスタッフになったばかりでしたので妻には“どうして?”と責められましたが……。

〜理化学研究所での10年間〜
 私どもの仕事はゲノムワイド関連解析というもので、糖尿病などの疾患集団と対照集団において特定のDNA配列の個人差(遺伝子多型といいます)を解析し、疾患と強い関連のある遺伝子領域(疾患感受性遺伝子)を同定する事です。初めは糖尿病腎症について100人ずつの疾患対照で10万カ所の遺伝子多型を調べる事から始めました。その後2型糖尿病にも解析を拡げたものの7,8年程は鳴かず飛ばずで、このままでは事業仕分けで一巻の終わりかという状況でした。転機が訪れたのは2007年、この年ゲノムワイド関連解析が全世界で一斉に花開きその成果が次々に発表されました。2008年私どものチームからも強力な2型糖尿病感受性遺伝子領域[KCNQ1]を初めて日本発で発信し、ようやく世間でも研究の意義を認めて頂けるようになってきました。

〜オーダーメード医療を目指して〜
 現在は数万人について200万カ所以上の遺伝子多型を解析しています。これらの成果は、疾患発症機構の解明や新規治療法の開発に結びつくとともに個人個人の違いを明らかにする事でオーダーメード医療を実現すると考えられています。しかしながら皮肉な事に多くの事が明らかになればなるほど、感受性遺伝子領域を単に同定するだけでは全く不十分で、臨床に役立つ情報とするにはさらなる困難が立ちふさがっている事も分かってきました。現在までに2型糖尿病では40余の確かな疾患感受性領域が同定されています。数年前までは一つも分かっていませんでしたので確かにゲノムワイド関連解析は大きなブレイクスルーをもたらしたといえます。が、この情報を持ってしてもオーダーメード医療に貢献するにはほど遠い現状なのです。まだまだ長い道のりのようですが、今回の受賞を励みとして、必ずできると信じて前に進みたいと思います。